UNDERGROUNDジャーナル研究所

ヤクザ・暴力団、その他裏社会に関するジャーナリズムについて研究・紹介するブログです。 ※このブログは反社会的な団体・行為を助長するものではありません。

「餃子の王将」社長射殺犯で工藤会系組幹部の「田中幸雄」被告

今回は、2013年に発生した餃子の王将」社長射殺事件の犯人である田中幸雄被告について取り上げたいと思います。この事件は、田中被告が単独で起こしたものではなく、彼が所属した特定危険指定暴力団工藤会」が関与した事件であるとされ、事件から9年後の2022年に田中被告が逮捕されました。

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大学中退後、一般企業での勤務経験もある田中幸雄被告。スキンヘッドに眼鏡のいかつい風貌だが、経歴は典型的な「インテリヤクザ」と言えよう

事件の概要

2013年12月19日午前7時頃、京都市山科区王将フードサービス」本社前から、「社長が倒れている」と社員から消防に通報があった。倒れていたのは王将フードサービスの大東隆行社長(72)で、腹部など3か所から出血した状態で倒れており、搬送先の病院で死亡が確認された。大東社長は早朝に出社後、銃撃され死亡したものとみられた*2*3

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犯人逮捕まで

事件はその後、長い間犯人不明とされたが、事件の直前に九州の暴力団の幹部が行方をくらませていたとの情報が福岡県警から京都府警に提供されていた。2015年夏、府警はこの暴力団幹部に事情聴取を試みたが、幹部は事件への関与を否定し釈放された*4。その後、事件現場に落ちていたタバコの吸い殻のDNA鑑定や、犯行に使われたとみられるオートバイの足取りなどから、工藤会系組幹部の田中幸雄(56)が犯行に関わったとみて、京都府警は2022年10月28日、田中を逮捕した*5

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事件の背景

王将はこの事件を受け、反社会的勢力との関係の有無について調査する第三者委員会を設置。委員会は、創業家の知人やその関係企業と同社が、1990年代から2000年代にかけ、不適切な取引を繰り返して200億円以上を流出させ、うち170億円以上が未回収となっていることを明らかにした*6。この創業家の知人とは、部落解放同盟中央執行委員長であった上杉佐一郎氏の弟の上杉昌也氏であるとされる*7京都府警は、この創業家の知人が工藤会に大東社長の殺害を依頼したのではないかとの見立てで、2014年4月に事情聴取を行い、2016年1月には殺人容疑で家宅捜索を行っていた*8

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特定危険指定暴力団工藤会」とは

「五代目工藤会」は福岡県北九州市に本拠を置く特定危険指定暴力団。令和5年末時点での構成員数は約200人*9。最盛期の構成員数は約1200人(2008年)*10。2003年のクラブ襲撃事件、2011年の建設会社役員射殺事件、2013年の看護師刺傷事件など一般市民を標的とした事件を多数起こしており、著しい攻撃性が指摘されている*112014年9月11日、総裁の野村悟が逮捕され、勢力は減少傾向にある*12

 

田中幸雄被告の来歴

田中被告は福岡県大牟田市出身*13。2022年の逮捕時点で56歳であるので、1965年もしくは1966年生まれと思われる。大学中退後、旅行会社や運送会社を経て、33歳頃に組員となった*14。田中被告の中退した大学について、「青山学院大学」との情報がある*15工藤会に加入後、2003年に福岡市内のパチンコ店にトラックで突っ込む事件を起こし、2008年には大手ゼネコン「大林組」の社員が乗った乗用車を銃撃する事件を起こしている。2018年にこの事件を起こした容疑で既に逮捕され、服役していた*16

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「カタギの世界に愛想が尽きた」

田中被告は、工藤会系「石田組」に所属していた。パソコンに強く、組内の書類作成などを担い、組長からの信頼も厚かったという*17。名門大学中退の経歴があり、事務処理能力が高い田中被告は典型的な「インテリヤクザ」と言えよう。そんな田中被告はなぜ、30代前半でヤクザとなったのか。

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ヤクザ専門誌『実話時代』2014年4月号に、暴力団の若手幹部の特集記事が掲載された。田中被告はこの記事に登場しており、そのタイトルは「カタギへの絶望 上辺だけの、綺麗事に終始しがちな世界からの脱却」*18。記事の中で彼は、以下のように語っている。

ひと言で言えばカタギの世界に愛想が尽きたということです。とんでもないトラブルに巻き込まれてうんざりするような体験をしましたが、それを助けてくれたのが石田組の方々でした*19

 

私は長いことカタギの世界で生きてきました。一度として上司に人間的な魅力を感じたことなどありません。ところがうちの親分は、私がかつて味わったことのないほどの温かさを示してくれました*20

 

中退とはいえ、名門大学に進学し、一般企業に務めていた田中被告。その田中被告がヤクザに足を踏み入れるきっかけとなったのは、「カタギへの絶望」だった。

とはいえ、このような感情を持つのは、田中被告だけでは無いだろう。

「上辺だけの綺麗事に終始する日常」「人間的魅力の無い上司」...程度の差こそあれ、多くの人が同じような感情を抱えて日々を生きているのでは無いだろうか。そんな心の隙間にも、裏社会は入り込んでくるのかもしれない。

 

私たちは田中被告の言葉から、何を思い、どう学ぶであろうか...

*1:「金のためには手段選ばない組」 “王将”社長射殺事件で工藤会系組幹部を逮捕 タバコ吸い殻のDNA型が一致【福岡発】|FNNプライムオンライン

*2:「餃子の王将」社長が襲われ死亡 本社前で銃撃か - 日本経済新聞

*3:「王将」社長、待ち伏せられ射殺か 車で出社直後 京都府警、トラブルの有無捜査 - 日本経済新聞

*4:あの「未解決事件」の今 〜世田谷一家、餃子の王将社長、中野美人劇団員、福生顔面皮剥ぎ〜(週刊現代) | 現代ビジネス | 講談社(2/7)

*5:【経済事件簿】「餃子の王将」社長射殺事件の見分と起訴までの難しさ|NetIB-News

*6:王将、209億円流出 創業家知人らと不適切取引 第三者委調査 - 日本経済新聞

*7:王将の第三者委員会「調査報告書」を読む~福岡センチュリーゴルフクラブの上杉昌也氏とのズブズブな関係(前)|NetIB-News

*8:「餃子の王将射殺事件」社長が生前にしていた意味深な相談内容 | FRIDAYデジタル

*9:福岡県警察 福岡県内の指定暴力団

*10:暴力団工藤会への頂上作戦10年迎え大会 傷害事件は20年で半減 [福岡県]:朝日新聞デジタル

*11:特定危険指定暴力団「工藤会」とは? 市民が狙われた事件、組織の構図は… - クローズアップ現代 - NHK

*12:工藤会“壊滅作戦”10年 警察は引き続き徹底した取り組み|NHK 北九州のニュース

*13:日の出前わずか数秒の「プロの凶行」、4発すべて急所命中…[社長射殺]<上> : 読売新聞

*14:「カタギの世界に愛想が尽きた」王将事件の容疑者が”ヤクザになった理由” 社長との接点は?元警察幹部「独断でこんな大きな事件を起こすことはまずありえない」 | 特集 | MBSニュース

*15:餃子の王将事件 大学中退「田中幸雄容疑者」はヒットマンというよりテロリスト 臭う“反権力の思想”(全文) | デイリー新潮

*16:「カタギの世界に愛想が尽きた」王将事件の容疑者が”ヤクザになった理由” 社長との接点は?元警察幹部「独断でこんな大きな事件を起こすことはまずありえない」 | 特集 | MBSニュース

*17:「王将」社長射殺事件 元マル暴捜査員が語る田中容疑者 「なんで“工藤会”で重用されるのか」【福岡発】|福岡TNCニュース

*18:実話時代』2014年4月号

*19:同上

*20:同上